奈々、そして、相馬と中山。
3人は東京スカイツリーの下に来ていた。
「奈々さん、あなたが渡してくれたUSBメモリにこの場所が隠されていた。
あなたは一体・・・!?」
「・・・」
奈々は相馬の質問に答えないまま、スカイツリーの入り口へ向かい、歩き出した。
─── ごめんなさい、相馬さん、今は真実は語れないの。
だけど・・・あなたの運命は変えられたと思う。
奈々は心の中で呟いた。
オープン前のスカイツリー。
今日は関係者のみを対象とした観覧会が開かれているらしく、多くの人でごった返していた。
「本当にここにエリコが連れ去られたのかね・・・?」
中山は不安げな顔で奈々に質問した。
「はい、間違いありません」
奈々は歩みを止めず答えた。
「・・・君はどうしてそんなことが分かるんだね?
さっきのUSBメモリも、なぜ君が持っていたんだ?
暗号の答えを知っていたようだが・・・」
「それは・・・」
奈々は口ごもった。
「・・・あっ」
その時、奈々の目に、ある男の姿が留まった。
「ま・・・まさか・・・!?
トリム!?」
「ト・・・?トリ・・・?」
相馬と中山が顔を見合わせている間に、奈々はその男の姿を追って走り出した。
「ちょ、ちょっと奈々さん!!」
相馬の声は奈々の耳に聞こえていないのか、奈々は走りを緩めない。
「まさか・・・!あいつがこの時代に来ていたなんて・・・!」
「ちょ、ちょっと、奈々さん!!待って下さい!!」
「と、年寄りには堪えるスピードだ・・・!!」
相馬と中山は奈々を追いかけたが、人混みの中で奈々を見失ってしまった。
「はあっ、はあっ、一体、何が何だか・・・」
男を追いかけていた奈々は、周りの景色が変わったことに気付き、辺りを見渡した。
ここはスカイツリーの東ロビー裏側のようだ。
「お嬢さん・・・私に何か用かね?」
「はっ!」
奈々が振り返ると、そこにはサングラスをかけた黒服の男が立っていた。
「ト・・・トリムの幹部ね・・・!?」
「なぜ私のことを知っている?」
「母の敵・・・!
その顔・・・絶対に忘れないわ・・・!」
「ん?母?
もしやお前・・・未来から来たのか?」
「そう。私は未来でお前たちに攻撃されたミッドシティの生き残り。
母は私をかばい、命を落とした」
「・・・ミッドシティ?
ははは、私が指揮をとり壊滅させた町の生き残りか」
「お前の顔だけは絶対に忘れない・・・!
今、ここでお前に出会えたのも運命。
お前を逃さない!!」
「ははは、これは楽しくなってきた。
まさか、私と同じように未来からやってきたとは。
もしやお前、歴史を変えるために未来から来たのか?」
「今、あなたを倒せば、変わる未来があるはず!
覚悟・・・!!」
奈々はそう言うと、腰に隠し持っていた銃を取り出した。
「奈々ちゃん!!」
奈々はその声に振り返った。
振り返ると、駆けつけた相馬と中山が立っていた。
「この男は・・・!?」
黒服の男を見た相馬は、奈々に聞いた。
「こ、こいつは・・・私の・・・」
奈々は自分の喉まで出かかった台詞をグッとこらえた。
その奈々の姿を見た黒服の男は突然笑い出した。
「ははははは!!
そうか、自分から素性を明かせないか!
そうだよな。歴史が変わる恐れがあるからな。ははははは!!」
「歴史・・・!?」
「奈々というお嬢さん、後でこいつらに説明してやることだ。
これから滅びの道を辿ることになるのだからな」
「お、お前・・・!」
そう言うと、黒服の男は人混みの中へ紛れていった。
「あ・・・!ま、待て・・・!!」
奈々が気付いた時には、男の姿はもう無かった。
「・・・奈々ちゃん?
あなたは一体・・・」
「・・・ごめんなさい。
二人に話してなかったことがあります。
話す時が来たみたい・・・」
「え・・・!?」
奈々は相馬と中山に、自分が未来から来た理由を話し始めた。
「未来から来た・・・!?」
「はい・・・」
「そして、き、君が真由美の・・・娘・・・??」
奈々の話はこうだった。
その組織の名は「トリム」。
彼らの理念は、世界中から「選ばれた人間」のみの楽園をつくること。
その組織は「TW1」という兵器を用いて、人々を間引き、自分たちの意志にそぐわない国を制圧し続けていた。
トリムが最初に「TW1」を用いたのは、2012年。
その年、世界の終わりが始まった。
やがて、世界はトリムに支配される。
そんな世界の中、2015年。
奈々はこの世に生を受ける。
母親の名は、須磨真由美。
母の旧姓は関口。
奈々が生まれた時、父親の孝弘はすでにこの世にいなかった。
トリムの支配による暗黒の時代において、真由美は女手一つで奈々を一生懸命育てた。
幼い頃から多感だった奈々に、真由美は自身の母の形見であるヴァイオリンを与えた。
荒れ果てた世界の中で、奈々の奏でるヴァイオリンは、二人が住むミッドタウンの民の癒やしとなっていた。
そんな中、奈々が20歳になったとき、真由美は彼女に「ある真実」を伝えた。
世界を変えた「TW1」という兵器の発明には、真由美の元恋人が関わっていたということ。
その元恋人は、自らの発明が悪用されることを防ごうとしたが、トリムの罠にはまり、命を落としてしまったこと。
そして、その恋人の名は「相馬雄介」であるということ。
「相馬雄介・・・」
母が語った元恋人の名は、奈々の記憶に刻まれた。
そして、母がその名を語るときにふと見せた優しげな横顔も忘れなかった。
やがて、時は過ぎ、トリムの支配はさらに強大なものとなる。
真由美と奈々が暮らしていた「ミッドタウン」にもトリムの攻撃が開始され、真由美は奈々をかばい、命を落としてしまう。
ミッドタウンで暮らしていた人々の多くはトリムに連行され、逃げ延びた人々も次々に命を落としていった。
ミッドタウンから逃げ出した奈々は、行くあてもなく、祖母の形見のヴァイオリンとともに荒野をさまよい続けた。
そんな中、ある日、奈々はある町で一人の年配の女性と出会う。
奈々の弾くヴァイオリンの音色に耳を傾けたその女性の名は「エリコ」。
彼女も奈々と同じく、音楽を愛する人だった。
若い頃シンガーとして活躍していたエリコと、ヴァイオリニストの奈々との仲は急速に深まっていった。
ある日、エリコは奈々に驚くべき真実を語る。
エリコの父が、世界崩壊のきっかけとなった「TW1」の開発者だというのだ。
世界的な権威だった、エリコの父「大沢博士」は、トリムの手によって命を奪われた。
その話を聞いた奈々は、母が教えてくれた「相馬雄介」の名をエリコに語る。
相馬も「TW1」の開発者メンバーだったはず。
相馬の名を聞いたエリコは目を丸くし、奈々にこう言った。
「相馬雄介さん・・・。
昔、私を救おうとしてくれた方・・・」
数奇な運命にエリコは驚いた。
エリコがその昔、トリムにさらわれた際、彼女を救おうとして命を落とした男性の名前、それが「相馬雄介」だったからだ。
やがてエリコは奈々に「レジスタンス」の存在を明かす。
エリコは水面下で、トリムに反抗するための組織「レジスタンス」を結成していたのだ。
レジスタンスの元には、大沢博士が残したTW1の設計図があった。
「TW1」と同じ仕組みを持つ「TW1 零式」を作ることで、トリムに対抗しようとしていたのだった。
しかし、レジスタンスには最大の欠点があった。
「TW1 零式」を動かすための、肝心の動力資源が足りなかったのだ。
レジスタンスが保有している動力資源だけでは、たった一度しかTW1零式を起動できない。
それも、大きな物質の転送はできない。人一人分しか転送ができないということだった。
しかし、エリコはあることに気付く。
TW1は元々「時間移動」を行うために開発された装置。
動力資源が足りなくても、1度きりなら過去転送、すなわち、過去にタイムワープできるはず・・・。
それに気付いたエリコは、奈々にあるミッションを託す。
TW1零式で過去にタイムワープし、歴史を変えるというミッション。
幸いにも、タイムワープできる限界時間軸は、2012年11月12日を示している。
それより過去へはタイムワープできないが、2012年11月12日なら、まだトリムがTW1を起動させる前だ。
そして・・・。
「2012年11月12日・・・。
今も忘れないわ。確か、その1ヶ月後の12月12日に、私はトリムに拉致される。
そして・・・相馬さんが命を落とす・・・」
エリコは2012年12月12日という日のことを覚えていた。
「あの人の運命を変えたい・・・
あの日、相馬さんの命が救われればきっと・・・」
奈々はそう呟くエリコの手をそっと握り、静かにこう言った。
「私が過去へ行って、相馬さんを救います」
奈々はそうして、過去に戻った。
過去のエリコに出会った奈々は、彼女のバンドメンバーの一員となり、相馬に会う時を探っていたのだった。
「過去の人に未来の話をすると、未来が別の歴史として分離してしまうリスクがあるって、エリコさんから忠告されていたのに・・・」
「・・・なるほど・・・。
過去に未来の話を持ち込むと、本来あるべき未来が変わってしまう恐れがある。
僕にエリコの連れ去られた場所を直接伝えるのではなく、Excelシートで間接的に教えようとしたのは、そういう意味があったんだね」
「はい・・・。
私の口から直接伝えてしまうと、その時点で歴史のルールを変えてしまうことになります。
だから私は、相馬さんに間接的にヒントを伝えられればと思ったんです。
そして、これは未来のエリコさんからの指示でもありました」
「でも、今、奈々さんが僕たちに真実を話してくれたことで、歴史は動くかもしれない」
「・・・はい。本当は黙っているつもりでした。
でも、さっき、私がトリムの男と出会ったことで、
歴史のルールに少なからず影響が出るかもしれません。
私一人ならまだしも、本来出会うはずのなかった
未来の人間同士が出会ってしまった・・・。
そして、あの男は私が未来から来たことを、
相馬さんたちに伝えてしまった」
「・・・」
「だから、もう真実を伝えて良いと思ったんです。
すいません、なんだかかえって混乱させてしまって・・・」
「ううん、そんなことはないよ。
現に君は僕を救ってくれた。
前の未来だと、僕は、エリコさんの場所が分からず、彷徨ったあげく、トリムに殺されてしまうんだろ?
だけど、僕は今こうして生きてる」
「相馬さん・・・」
「さっきのトリムの男・・・。僕も見覚えがある。
おそらく研究所を襲った時にいた男だと思う。
この世界を救わないと・・・!」
「なんだか話が唐突でびっくりしてしまったが、年寄りの私にも、奈々ちゃんの話は理解できたよ」
中山が笑顔で奈々の肩をポンと叩いた。
「とにかく、エリコを見つけ出さないと!」
「はい!
エリコさんの場所は任せて下さい。
きっと、スカイツリーの上階に拉致されているはずです」
「よし、助けだそう!
奈々さん、一緒に世界を救おう!」
「はい!!」
その頃・・・。
「ふっふっふ・・・。
大沢の娘、気分はどうかね?」
「はっ・・・!!
こ・・・ここはどこ!?
あなたたち・・・一体何者!?」
「お前の父の命を奪った者とでも名乗っておこう」
「・・・えっ!?
お・・・お父さんが・・・!?」
「お前の父が発明した『TW1』を我々は手に入れた。
我々は『TW1』を用いて、この世界を浄化していくつもりだ」
「TW1・・・??
そんなの知らないわ!
私のお父さんを殺したって本当なの!!?」
「まあ、落ち着きなさい。
暴れると、その拘束具が身体に食い込むだけだからね」
「うっ・・・!
こ、これは・・・!」
「大沢の娘よ、博士は君に遺言を残そうとしていたようだ。
君にこの遺言を解読してもらいたい」
「遺言・・・!?」
「博士は君にこんな手紙とUSBメモリを残していたよ」
エリコへ
この手紙をお前が読む頃には、私はこの世にはいないかもしれない。
私はある組織に命を狙われている。
その組織は私が発明した「TW1」という装置が目的らしい。
あの装置が悪意のある者の手に渡ると、世界が滅びてしまう。
もし、万一、あの装置を悪用しようとする者が現れたとき、お前に装置を止めて欲しい。
この封筒に同梱されているUSBメモリに、装置を止めるヒントが隠れている。
そのヒントは「6文字の暗号」だ。
きっと、その答えはお前にしか分からない。
お前にとって、私は頼りない父親だったに違いない。
研究に明け暮れた私を許してくれ。
研究に没頭し続けた一生だったが、お前が生まれてきてくれた時、本当に嬉しかった。
今でもお前の5歳のお遊戯会を観に行ったことを覚えている。
小さい頃から歌好きだったお前は、いつも家で歌を練習していたな。できることなら、またお前の歌を聴きたい。
もっと想い出を重ねておくべきだった。
ずっとお前を愛している。
父より
「お父さん・・・!」
「さあ、感傷に浸る時間は終わりだ。
このUSBメモリに隠された暗号を解くが良い」
「私に暗号なんて分かるはずないわ・・・!」
「ふっ・・・、先程の手紙に書いてあったではないか、お前にしか分からないと」
「そんなの・・・」
「暗号が解けないと、拘束されたまま死を迎えるだけだぞ。
さあ、解いてみよ」
全国のExcel使いに告ぐ! 博士がエリコに託した「6文字の暗号」を見つけ出せ!
そのExcelシートは、エリコにしか解けないらしい。
博士からの遺言書にヒントが隠されているかもしれない。
その暗号とは何なのだろうか!?
6文字で答えてほしい!
暗号が解けない場合は、少し時間を巻き戻してみることをオススメする!
この謎解きにチャレンジしていただけます。
謎解きにチャレンジされる方は、下記の「博士から受け取ったファイルをダウンロードする」をクリックしていただき、ファイルをダウンロード後、ファイル解凍後のフォルダに同梱されている「エリコへ.xls」を開いて下さい。
暗号が解けた方は、下記の応募フォームから解答をお送りください。
期間中に応募された方の中から、抽選で1名の正解者様に、キッチン飛彈の和風煮込みハンバーグ&カレーセット(¥5,250)をプレゼントさせていただきます。
今回の謎の解答は、次回の「東京エクセル物語シーズン2 第5話」の本編で明らかになります。
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