相馬とともに、近所のライブホールに来た中山教授。
そこでは「TARGET BLANK」というバンドのリハーサル準備が行われていた。
バンドメンバーはまだ到着していない。
ホールの中ではPAのスタッフが慌ただしくライブの準備をしていた。
「おお!中山、久しぶりじゃないか」
「久々だな、三嶋。今夜はTARGET BLANKのライブが観れると聞いて楽しみでな」
「俺も楽しみなんだ。エリコちゃんたち・・・いや、TARGET BLANK、彼女らは今や押しも押されぬメジャーアーティストの仲間入りだからな。俺とお前の二人、彼女らのアマチュア時代からの頑張りを知っているだけに、感慨深いってもんだ」
このホールのオーナーの三嶋は、TARGET BLANKの無名時代からのファンだ。
彼女らが全国進出するきっかけをつくった人物でもあり、このライブホールは、TARGET BLANKのホームグラウンドでもある。
今でも不定期にTARGET BLANKのライブ企画を行っており、今日がちょうど3ヶ月ぶりのライブが行われるということだった。
「懐かしいぜ。元々5人ほどしかいなかったファンも、FMでヘビーローテーションされるやいなや、ホールに入れないほどのファンが押し寄せるようになった」
「ははは、良いことじゃないか」
中山は、このライブホールのオーナー「三嶋」と昔からの知り合いだった。
元々音楽好きだった中山は、このホールから巣立っていくバンドやアーティストの成長を見るのが楽しみで、フラリとホールを訪れることが多くあった。
「TARGET BLANK」も中山が応援していたバンドの一つだった。
「あ、あの・・・中山教授。そのTARGET BLANKっていうバンドに、何かヒントがあるんでしょうか・・・?」
中山にそう切り出したのは相馬だった。
「おっと、言い忘れてたね。実はこのバンドのボーカルの名前は、エリコというんだ」
「エリコ!?博士からのExcelシートに隠されていた名前ですね」
「そうなんだ。
私は以前、エリコと話したことがあってね。
彼女は幼い頃に父親と離ればなれになり、それ以来、母親と二人で生きてきたと言っていた。
あのシートの名前を見た瞬間、その記憶が蘇ったんだ」
「なるほど・・・。ですが、エリコという名前なら、全国にたくさんの女性がいると思います。その女性が博士の娘だという証拠は・・・?」
「私もエリコという名前だけで、大沢の娘だという推測をしたわけじゃない。実は、彼女たちが最近リリースしていた歌を思い出して、ピンときたんだ」
「・・・歌?」
「そうだ、実際に彼女の歌を聴いてみなさい」
「三嶋、TARGET BLANKの新曲って、今流せるかな?」
「ああ、大丈夫だ。今FMでヘビロテ中のあのバラードだよな」
「そうだ」
「ちょっと待ってくれよ。おっと、これだ、これだ」
マスターがCDを流し始めると、静かなピアノの音色と共に、透き通るようなボーカルの声がライブハウスに広がった。
「これは・・・もしかして・・・Excelの関数の歌ですか?」
「ああ、そうみたいだ」
「どうして、Excelの関数を歌にしたんでしょう・・・?」
「そう、そこだ。
実は前に私がエリコと話した時、彼女はとても興味深いことを言っていた。
離ればなれになった父親との一番の思い出は、父親から定期的に教えてもらっていたExcelだそうだ」
「Excelを父親から教えてもらっていた・・・?」
「なんでも、彼女の父親はどこかで
Excelをよく使う仕事をしていたようで、
当時小学生だった彼女にゲーム感覚で教えていたそうだ」
「小学生の娘にですか・・・?」
「テレビも映画も観ない父親だったそうで、なんとか娘との接点を作ろうと一生懸命だったんだろうな。不器用な父親だったんだと思う」
「なんだか、大沢博士みたいですね・・・」
「そう、それだ。
彼女の言葉を思い出してみると、なんだか大沢のように思えてきてな。
そこでつながったのが、大沢から届いたExcelのシートだ」
「・・・あっ!・・・
それで、このバンドのボーカルが、博士の娘だと・・・」
「まあ、娘かどうかは、本人に聞いてみるのが一番早いだろう。
・・・ところでこの歌、一見ラブソングのように聞こえるだろ?
俺はこの歌が、彼女が自分の父親へ向けた歌にも聞こえてくるんだ。」
「自分の父親へ向けた歌・・・」
相馬の胸に「あなたとの想い出にフィルタをかける」という歌詞が響いていた。
その時、ライブハウスの入り口が開き、一人の女性が入ってきた。
「マスター、おはようございます!
電車がすごく混んでて、ちょっと遅れちゃいました」
「おお、奈々ちゃん、他のメンバーはまだ着いていないみたいだぜ」
マスターは、その女性と親しげに語っていた。
その女性は傍らに楽器を抱えていた。
どうやら、ヴァイオリンのようだ。
楽器を取り出し、何やら準備を始めたその女性の顔を見て、相馬は驚いた。
「・・・ま、真由美・・・!?」
「・・・えっ?」
ふいに声をかけられたその女性は、丸い瞳で相馬を見返した。
「・・・に、似てる」
「あれ?どなたか私に似たお知り合いの方がいらっしゃいましたか?
私、TARGET BLANKでヴァイオリンを弾いている、奈々って言います」
「・・・奈々・・・さん」
その時、入り口の方から突然、扉を開ける大きな音とともに男性が駆け込んできた。
「マ、マスター!!警察を呼んでくれ!!」
「ヒ、ヒデト!?どうしたんだ!?一体!?」
「エ、エリコが・・・!!エリコが変なやつらにさらわれた・・・!!」
「えっ!!」
「な、なんだって!?
一体何が起きたって言うんだ!?」
「俺にも分からねえよ!!
黒服を着た変な男たちに急に囲まれて、あっという間の出来事だったんだ・・・!!」
「その車のナンバーは確認したか!?」
「い、いや、一瞬のことだったので、覚えてなくて・・・どうしよう!!」
「ヒデト!冷静になれ!
お、俺はとりあえず、警察に連絡する!」
「マスター、エリコが連れ去られた方向なら分かると思います」
突然、奈々はそう言うと、ポケットの中からUSBメモリを取り出した。
「エリコが連れ去られた場所は、多分、このUSBメモリの中のExcelシートに書かれているはず」
「え・・・?
奈々ちゃん・・・君は一体・・・?」
皆が驚いている中、奈々は落ち着いて言った。
「このUSBメモリはエリコ本人から預かっていたものなの。
このUSBメモリの中にはExcelのシートが入っている。
そして、そのシートの中に、エリコを探すための手がかりがあると思う」
「奈々ちゃん、この大変な時にふざけてちゃ駄目だよ!!」
三嶋は奈々を叱咤し、警察に電話をかけようとした。
「ううん、ふざけてなんかいないの。エリコはまだきっと大丈夫。
私にははっきりと分からないけど、それだけは言える。だからみんな安心して。
相馬さん」
「は、はい!」
奈々に突如声をかけられた相馬は慌てて返事をした。
「Excelの得意な相馬さんなら、このシートを解読できるわよね」
そう言うと、奈々は相馬にUSBメモリを手渡した。
「えっ・・・、ど、どうして僕の名前を・・・??
まだ名乗ってなかったのに・・・。
奈々・・・さん?あなたは一体・・・?」
「相馬さん、急いで!
私にはこのシートに何が書かれているか分からないの」
「わ・・・分かった!
とにかく、解読してみる!」
相馬には何が起きているのか全く分からなかった。
ただ、一つ言えるのは、エリコの身が危ないこと、そして、彼女を救う手がかりが奈々から託されたExcelのシートに隠されているらしい、ということだった。
「あ、エリコからの伝言があるわ。
『力を合わせれば、きっと地図は描ける』」
「で、伝言・・・?」
相馬はとにかく暗号を解いてみることにした。
全国のExcel使いに告ぐ! 奈々が相馬に託した暗号を解け!
奈々が相馬に託したExcelのシート。
その中には、エリコをさらった謎の組織が向かった「ある場所」が示されているらしい。
その「場所」とは一体どこなのだろうか?
施設名で答えてほしい!
この謎解きにチャレンジしていただけます。
謎解きにチャレンジされる方は、下記の「奈々から受け取ったファイルをダウンロードする」をクリックしていただき、ファイルをダウンロード後、ファイル解凍後のフォルダに同梱されている「あなたへ.xls」を開いて下さい。
暗号が解けた方は、下記の応募フォームから解答をお送りください。
期間中に応募された方の中から、抽選で3名の正解者様に、CD「私の心の中の関数/愛のウイルス対策」をプレゼントさせていただきます。
今回の謎の解答は、次回の「東京エクセル物語シーズン2 第4話」の本編で明らかになります。
全国のExcel使いの方々からのご応募お待ちしております!
「こ・・・この数字は!?」
「もしやこれは・・・あの数字じゃないのか?」
そう言った中山はPCに向かって、その数字を入力し始めた。
「あっ・・・!この場所は・・・!」
「これがエリコが連れ去られた場所ね。みんな、エリコを助けに行くわよ」
「奈々・・・ちゃん?」
奈々の顔には強い決意の表情が浮かんでいた。
「待っていて、エリコさん。私がきっと救い出すから」
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